しあわせのヒント

ユーミンの思い出

ユーミンが好きだ。
中学に上がった頃、ラジオから流れてきた「ベルベット・イースター」を
聴いたのが最初だった。
イントロもコード進行も歌詞も独特の歌声も、なにもかもが衝撃的で
すぐに図書館の視聴覚コーナーからレコードを借りてきた。
それからというものいつも身近にユーミンが流れていた。
ピアノの弾き語りを覚え、バンドを組んで自分で歌うようにもなった。
高校3年の時、駅前のレコード屋に「入場券あります」とポスターが張ってあった。
隣の町のプールで、ユーミンのコンサートがあるということだった。
それが、20年以上も続くSURF&SNOWの第一回目だったのだと思う。

その後、夏になるとそのコンサートは開かれて、行きたかったのだが
近いのでいつでもいけるような気がして、結局一度も行かなかった。
でも野外コンサートなので近くまで行って聴いたこともあるし、
たまたまそばの住宅地にすんでいる友達の家に行った日、
コンサートをやっていて、歌声が風に乗って聞こえてきたこともあった。

2002年の夏、私は例のプールの近くのアパートに住んでいて、
1歳になったばかりの息子の世話に明け暮れていた。
今年もユーミンのコンサートがある。
それも今回は近隣の住民が公開リハーサルに招待されているのだ。
ふーん、と思った。関係ないや。
遠い世界、自分には関係のない世界の出来事のように思えた。

その頃の私は、朝から晩まで子供に振り回されていて、
親ならばそれが当然だと思っていた。
子供向きの音楽を聴き、子供向きのテレビを見て、子供向きの絵本を読む。
自分で読む本もこうすればよい子に育つ、とか丈夫に育てる食事とか、
子供のことで、頭がいっぱいだった。
好きだった音楽も、旅も、本もみなどこかに押しやって、
よい親、立派な親になることが正しいことだと信じ込んでいた。

暑い夏だった。
花火大会の日、小高い山の上に住んでいたので、
ちょっと歩けば見えるだろうと、子供を抱いて行ってみた。
山の向こう側からどーん、どーん、ぱんぱんぱん、と花火の音が聞こえてくる。
高く上がったヤツはここからもよく見えて、
大輪の花火が空にぱぁっと開くたびに、腕の中の息子もきゃきゃ、と笑った。
夜の風が海の方からさあっと吹いてきて、心地よかった。
その時、風と共に音楽が聞こえてきた。ああ、コンサート今日だったんだ。

ユーミンの独特の声が風に乗って舞うように聞こえてくる。
花火をちょっと見たらすぐに帰ろうと思っていたのに、つい聞き入ってしまった。
そういえば自分の好きな曲なんてしばらく聴いてなかった。
曲を聴くたびに、その曲が流行っていた頃の思い出が、
ひとつひとつ、まるで映画をみているようによみがえってくるのに驚く。
音楽の力ってすごい。

空には大輪の花火、花火と一緒にユーミンの歌声も聞こえる。
昔、大好きだった「紅雀」が聞こえてきたとき、なんだか胸がつまって涙が出た。
ああ、私何してたんだろ、子供のためだといって、自分のこと忘れていた。
いつだって自分は自分で、好きな音楽も映画もある。
時には楽しんで、その嬉しい気持ちを子供に伝えて一緒に楽しめばいいじゃないか。
そんなことを思った。

結局、かなり長い間、子供を抱いて聴いていた。
花火が終わったので家に帰ることにした。
ユーミンの歌声はまだ聞こえていた。
コンサートはまだ続いているようだった。

ABOUT ME
TAKAKO
介護福祉士、心理カウンセラー。湘南生まれ、湘南育ち。茅ケ崎市在住。 マキシマムステートプログラム公認トレーナーとしての活動も行っています。